2019/08/09

ずっとずっと帰りたかった。ずっと京都の夢を見ていた。もう一度鴨川に足をつけて,夕焼け色に染まる空を見たかった。

 

大学生活の4年間を過ごした京都を離れて5ヶ月,ずっと京都のことが恋しかった。

東京は楽しい。新しい家はすごく素敵だ。大学も楽しい。もちろん研究もたのしい。友達にも恵まれている。会いたいって言ってくれる人がいて,会いたいって思う人がいる。行きつけのスーパーもあるし,お気に入りのレストランもできた。東京に慣れてきたよ,東京は東京で楽しいよってそう言っていた。でも実はそれは言い聞かせていただけで,本当はずっと京都に帰りたかった。

 

やっと帰れた。2日間。あまりにも懐かしかった。離れていたのがたった5ヶ月とは思えなかった。5年振りくらいのような気がする。それくらい恋しくて、この日のことを待ちわびていた。もう本当にずっとずっと帰りたかった。泣きたいくらい。

 

吉田山の向こうから覗く入道雲があまりにも白くて、大きくて。鴨川のせせらぎと一緒に流れていく時間はとてもゆっくりで、心地よくて。喜んだり、悲しんだりしたたくさんの思い出と一緒に、大丈夫だよ、世界はここにあるんだよってもう一度わたしを包み込んでくれた。大学時代、鴨川沿いでたくさん泣いたね。生きるのが苦しくて、怖くて。自分が嫌いで、どうすればいいかわからなくて。この街は、鳥取から出てきた心も体もボロボロの私を、全部包んでまとめて愛してくれた。守ってくれた。世界はわたしと共にあると教えてくれた。だからこそこの場所に帰ったら私はだめに,本当にだめになってしまうと思った。たとえば,時間を持て余して、毎日うたた寝をしてしまうように。そして,だらけて液体になってしまうだろう。今の私にとってはそれはとても良くないなことなのだ。なぜなら私は、健康な状態で、何かに向かって思いっきり走る経験が必要だから。

 

鴨川の水はぬるかった。デルタでは今日も大学生が花火をしていた。相変わらず空は広くて,タクシーの運転は荒かった。みんなみんな前を向いて今の生活を生きていて,京都の人は綺麗だったよ。事実かどうかはどうでもよくて,私にはそう見えた。私だけが後ろを気にしていた。一歩を踏み出すのが怖いんだね。前しか見ないのが怖いんだね。

 

昔憧れていた先輩が「将来どうなりたいか,なんて考えないって決めてるんだ」って言っていたことを思い出して,あぁやっぱりすごいなぁと思う。そう,将来の自分なんて,巡り巡っていつのまにかたどり着くものだ。そういう考え方の方が私にはしっくり来る。

巡り巡ってたどり着く先が京都であるのならば,私はそれを喜んで受け入れましょう。それがアメリカでもドイツでもメキシコでも同じ。だからもう帰りたいなんて思うのはやめた。

本当にさようなら,京都。未熟なわたしもここに置いていかせてほしい。